人はなぜ逃げおくれるのか―災害の心理学/災害の襲うとき―カタストロフィの精神医学(安心社会には不安が必要。)
- 作者: 広瀬弘忠
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/01/01
- メディア: 新書
- 購入: 8人 クリック: 131回
- この商品を含むブログ (56件) を見る
新書はこうあるべしと思いました。
災害心理学の概論書といえば,1995年の阪神・淡路大震災後当時,日本語で読める類書がほとんどなかったことから,
- 作者: ビヴァリーラファエル,Beverley Raphoel,石丸正
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1995/02
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
前掲書は,日本のラファエル本と呼びたいような気がします。
災害時にはパニックは意外と起こらないことを指摘した上で,パニックが起こる4つの条件が挙げられていたのは面白かったです。
- 緊迫した状況に置かれているという意識が、人びとの間に共有されていて、多くの人びとが、差し迫った脅威を感じている、ということ。
- 危険をのがれる方法がある、と信じられることだ。もし、絶対に助からない、助かる見込みはない、と確信すれば、私たちは、逃走行動を放棄して、諦めと受容の姿勢でその危険をむかえ入れるか、背中を向けるのではなく、正面に向きをかえて、討ち死に覚悟の捨てばちな行動をとるかのどちらかだろう。
- 脱出は可能だという思いはあるが、安全は、保証されていない、という強い不安感があることだ。(中略)自分自身の安全な脱出は、現実には困難かもしれないという危惧を、多くの人びとが共有しているということである。
- 人びとの間で相互のコミュニケーションが、正常には成り立たなくなってしまうことである。(中略)適切なコミュニケーション手段を利用することで、全体状況の理解が可能になれば、脱出者の忍耐心に訴えて、混乱を抑えることができる。
他,印象に残ったのは,避難行動に関する心理について述べているところで,
私たちの心的なメカニズムは、不安や危機感を持続させて、つねに心身を緊張状態に置くことの不利益を除くために、時間の経過とともに、自然に、不安や危機感が低下するようにできている。そこで、不安や危機感を、つねに一定のレベルに保ち、避難行動を含めた防災行動を起こしやすくするためには、新たな不安や恐怖、危機意識を呼び起こす仕組みをつくらなければならない。逆説的な言いかたかもしれないが、安全を確保し、安心を得るためには、不安や恐怖、危機意識などが、つねに私たちの内部で併存していなければならない、ということなのである。(太字はlionusによる)
タイトル通り「逃げおくれない」ためには,危機をキャッチする構えが必要であり,安心と不安は排他的ではなく併存することが望ましいというのは,言われればそうだなと思うのですが,「安心・信頼」と喧伝する時には不安は排除されるべきものという前提があるような向きがあるので,忘れてはいけないポイントだと思いました。