lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

分厚い贅沢さ。

この日記の中でも何度か言及している猫ギター先生のブログで中森明菜さんについての記事を以前読みました。
中森明菜とYOSHIKI
その中で,『Stock』というアルバムに言及されているのが印象に残っていました。

私が一番好きな中森明菜のアルバムは「Stock」で、これはシングル候補になった曲を集めて1枚のアルバムに仕立てた、裏ベスト的なアルバムである。
一時中森明菜は何を思ったか、売れ線のわかりやすい曲ではなく、「Fin」とか「SOLITUDE」とか「AL-MAUJ」のような、ヨーロッパ的なデカダンの気だるい曲をシングルにした。
だから本来シングルになるはずの、歌謡曲的でキャッチーな曲がシングルの選考に漏れ、どんどんたまってゆく。「Stock」はそんな曲を一同に集めたアルバムである。
「Stock」はハードロック風のアレンジを施したアップテンポな曲で構成され、「DESIRE」や「TANGO NOIR」級の曲がゴロゴロしている、全盛期の歌手にしかあり得ない贅沢な作品だ。

Stock(紙ジャケット仕様)

Stock(紙ジャケット仕様)

lionusは小さい頃から,お年玉でLPのテープ盤(当時は家にオーディオセット無かったもので;非文化的な家ですね;汗)を買い,ボロいラジカセで愛聴していました。ただ,デビュー当時の路線はあまり好みではなく,シングルでは『北ウイング』,アルバムでは『Possibility』以後が好きで,聴いていたのもそのあたり中心でした。*1
『Stock』がリリースされた頃には,家にオーディオセットが導入されていたので,レンタルLPをダビングしたテープで聴いていました。
当時のlionusにはちと大人っぽいハードな曲が多かったですが,猫ギター先生の書かれておられる通り,ボツ曲ながら普通ならシングルになるような曲ばかりなので,聴きごたえがありました。
猫ギター先生の記事を最近ふと思い出し,「当時テープで持っていたアルバム,またCDで聴きたいなぁ・・・」と思っていました。
しかし,何年か前,CDで再発されていないかと,それらの(アイドル中森明菜全盛期当時の)アルバムを探してみたのですが,いずれも廃盤でしたし,中古で探しても全く見当たらず(再発されたCDを買う人は本当に好きなので手放さないのでしょう),半ば諦めていました。*2
しかし,先日阪急梅田駅の三番街の地下を歩いていたら,中古CD販売の特設会場があり,何気なくのぞいてみたら,全てではありませんが,上記の『Stock』ほか,その当時近辺のアルバムがあるではありませんか!この頃のものが出ているなんて,め,珍しい!
何よりも嬉しかったのは,発売当時”問題作”として話題になった『不思議』をゲットすることができたことです。
不思議(紙ジャケット仕様)

不思議(紙ジャケット仕様)

当時,何が”問題”になったかということについては,数多くのブログ等で記述がありますので,ちょっと引用します。

アルバム『不思議』は、中森明菜の初のセルフプロデュースによる作品だ。神秘、狂喜、混沌、幻覚、恐怖をテーマに、多くの作家と作りこんだもの。いったんは完成したものに対して、EUROX(ユーロックス)によって、アレンジ・ミックスの変更が全面的に行われた。ヴォーカルは楽器の一部とみなし、音量を下げ、エフェクト処理された。リバーブ(エコー)をアルバム全体に前面に出したため、歌詞は聞き取りにくく、摩訶不思議な仕上がりの実験的アルバムだ。

http://soundtomato.blog90.fc2.com/blog-entry-102.html

当時、発売前に何故だか『不思議』のコンセプトは知っていたので、声がぼんやりしか聴こえないのも、それこそ不思議だなと思うだけでした。歌詞カードも何故だか中国語もあって、レコード全体が不思議ワールドです。コンセプトとしては気に入りました。
(中略)
発売された当時は『不思議』は不人気のアルバムでした。当時の評価と今、ネットで見る評価とは180度違うと言っても過言ではないです。何を歌っているのか分からないと否定的な意見を雑誌の投稿で見ました。

http://hpcgi3.nifty.com/bonheur/utahime_album_review.cgi?album=13

その他,amazonのレビューにも色々うなづけるコメントが記されていますが,ともかくも,アイドルらしくないとかいうよりも,普通のうた音楽じゃないのです。分厚いサウンドの中に埋め込まれた,まるで風呂場かだだっ広い倉庫の中で歌っているような遠く拡散したボーカルは異様です。
発売当時,「声が聞き取りにくい,不良品ではないか」という問い合わせが殺到したというエピソードが,その異様さを証明しています。
しかし,当時の自分の感想はどうだったのか振り返ってみても,確かにびっくりはしましたが,あまりのカッコよさにしびれてしまい,8月の発売(夏休み中)で学校がなく家にいるのをいいことに,一日中エンドレスのヘビロテでした。
そんなに好きだった中森明菜さんのアルバムも,あの自殺未遂事件以降どうも遠ざかってしまい,その後は他の音楽に興味が行き,忘れていました。
でも,今改めて20年以上前に発売された『Stock』と『不思議』を聴いていると,アイドル歌謡曲ながら楽曲の質の高さと,サウンドの分厚さ,豪華さ,芸術性に驚きます。
特に,『不思議』の評価は当時と真逆に非常に高く,うなぎ上りの感を(ネットであれこれ見聞して)受けました。
今度は,愛聴盤として持ち続けていきたいと思います。

*1:初期のシングル来生作品は佳作だとは思いますが。他,『少女A』は別格。

*2:今回改めて検索してみると,2006年にパイオニア時代の作品については紙ジャケ形式で再発されていたようです。